育成就労で先に転籍できるのは、よく育った人です
「育成就労になったら、せっかく育てた子が他社に移ってしまうのでは」。受け入れを検討している経営者の方から、この心配をよく聞きます。この心配は的外れではありません。育成就労で本人の意向による転籍が認められるのは、一定期間働いたうえで技能と日本語の試験に合格した人です。つまり、最初に他社へ移れるようになるのは、社内でいちばんよく育った人です。これを契約で防ぐ方法はありません。本人が「ここに残りたい」と思うかどうかで決まります。
以下、入管庁の「育成就労制度Q&A」と、2026年1月23日に閣議決定された分野別運用方針をもとに書いています。育成就労は2027年4月1日に施行されます。内容は現時点の情報で、今後の省令・告示で変わる可能性があります。
本人意向の転籍は、どんな人ができるのか
本人意向の転籍とは、育成就労で働く外国人が、自分の希望で受け入れ先の会社を変えることです。入管庁のQ&A(Q48〜Q55)によると、主な条件は次の3つです。
まず、同じ会社で「転籍制限期間」を超えて働いていること。期間は分野ごとに決まっていて、介護・飲食料品製造業・工業製品製造業・外食業など8分野は2年、宿泊・リネンサプライ・ビルクリーニング・農業など9分野は1年です。
次に、分野別運用方針が定める水準の技能と日本語の力を身につけ、試験に合格していること。
最後に、移る先の会社が本人の育成就労計画を作り直し、外国人育成就労機構の認定を受けること。本人が申出をしても、移り先が決まらなければ転籍はできません。
2年の分野でも、会社の判断で育成就労計画の制限期間を1年にすることはできます。逆に1年を超える期間を設ける会社は、1年を過ぎたあとの昇給など、待遇を上げる措置をとる必要があります(Q51)。この選び方は9月17日の記事で扱ったので、ここでは「期間が過ぎたあと、何が本人の判断を分けるか」に絞ります。

同じ時期に来ても、2年で差がつく
この3つの条件を読んで、私たちが最初に思い出したのは、9月に監査で訪れた兵庫県の食品工場(そう菜加工・女性5名)のことです。5人とも2024年8月に入国しています。それが2年たった今、日本語力はN2の人からN4の人まで分かれていました。
育成就労でも同じことが起きるはずです。転籍に必要な試験に早く合格し、他社からも受け入れやすい人は、現場でいちばん頼りにされている人と重なります。仕事を覚えるのが早く、日本語で報告や相談ができる人です。
「優秀な人ほど出ていきやすい制度」だと受け止めると、日本語の勉強を支えることをためらう会社も出てくるかもしれません。ですが、それは逆効果だと私たちは考えています。育成就労の目標は、修了までに日本語A2相当の試験と技能検定3級などに合格し、特定技能1号へ進むことです(Q13・Q63)。勉強させない職場は、制度の目的に沿わないうえ、本人からも選ばれません。
移り先の会社にも制限がある
心配されるほど、人が自由に動くわけではありません。入管庁のQ&Aでは、受け入れる側にも条件がついています。
転籍者を受け入れられるのは「優良な育成就労実施者」と認められた会社だけです(Q53)。また、受け入れている育成就労外国人のうち、本人意向の転籍者は3分の1までです。大都市圏の会社が地方から受け入れる転籍者は、6分の1までに制限されます(Q54)。賃金の高い都市部に人が集中するのを防ぐための仕組みです。
転籍先は、元の会社が負担した初期費用の一部を支払います。金額は主務大臣が告示で定める額に、在籍期間に応じた按分率をかけて計算します(Q55)。具体的な金額は、入管庁の最新の告示で確認してください。按分される以上、育成にかけた時間や手間がすべて戻るわけではありません。
多人数を受け入れる会社にとっては、「うちも優良認定を取っていれば、他社からの転籍者を受け入れる側になれる」ということでもあります。ただし上限は3分の1なので、転籍者を当てにした人員計画は組めません。

10人のラインで1人抜けると、何が起きるか
弁当・惣菜工場や介護施設で10人規模の受け入れを考えている会社ほど、影響は大きくなります。抜けるのは、入国2年目に入ってシフトの中心になり、新しく来た人に作業を教えている人です。その人の穴は、次に来る人が入国して配属されるまでの数か月は埋まりません。
寮の空きが出る、同じ出身の仲間が減って残った人が不安になる、といった影響も続きます。1人の転籍が2人目・3人目につながることもあり得ます。
選ばれる職場は、何が違うのか
MOOZ事業協同組合(三重県津市)では、これから育成就労で受け入れる会社に、引き止めの工夫ではなく、次の点を施行前から整えるよう案内しています。
1年目の終わりに、2年目以降の姿を見せること。 昇給の時期と金額の目安、任せる役割、特定技能1号に進んだ場合の条件を、本人が理解できる日本語で伝えます。2年の分野で制限期間を1年超にする会社は、もともと昇給などの措置が必要です。どうせ行うなら、早めに見える形で伝えたほうが効果があります。
賃金を「手取り」で説明すること。 転籍を考える人が比べるのは、額面より寮費や光熱費を引いた後の金額です。寮費が相場に比べて高くないか、何が控除されているかを本人が説明できる状態にしておきます。
日本語の勉強を業務の外に追いやらないこと。 試験に受かった人が出ていくのを恐れて勉強を後回しにすると、本人は「ここでは先がない」と感じます。
相談できる日本人を1人決めること。 監理団体の巡回は月に1回です。毎日の小さな困りごとを聞くのは、現場の誰かにしかできません。私たちも巡回で本人と話しますが、「職場に話せる人がいるか」は定着にいちばん関わると感じています。
どれも特別な制度対応ではありません。技能実習の今からでも始められることです。今いる実習生にできていないことは、育成就労になってもできません。
施行までに何をすればいいか
2027年4月1日の施行までに、自社の分野の転籍制限期間(1年か2年か)を確かめ、今の賃金表・寮費・昇給ルールを書き出しておいてください。人数が多い会社ほど、この棚卸しに時間がかかります。
当組合は三重県を中心に東海・近畿の食品製造、介護、宿泊、製造業の受け入れをサポートしており、2名から受け入れ可能です。10名規模の受け入れや、育成就労での制限期間・昇給の組み立て方のご相談も受けています。賃金表と寮の条件をお持ちいただければ、他社と比べたときにどこが見劣りするかを一緒に確認します。
ご相談はMOOZ事業協同組合(三重県津市)へ。https://mooz-gr.jp