最低賃金の改定で、実習生の書類は3つ直す

最低賃金の改定で、実習生の書類は3つ直す

先週、兵庫県の惣菜加工の現場を回りました。女性5名、全員2024年8月の入国です。日本語はN2からN4まで幅がありますが、賃金の書類は5人分そろって同じ日付で動きます。改定の月に手が止まるのは、額の計算ではなく、この5枚のほうです。

やることは3つです。雇用条件書を発効日からの額に書き換える。給与計算と賃金台帳に反映する。OTITへの軽微変更届が必要かどうかを判断する。額そのものは47都道府県の一覧とあわせて別の記事にまとめてあるので、ここでは手続きだけを書きます。

まず、自社の発効日を確定させる

令和8年度の改定は9月3日に47都道府県すべてで答申が出ました。全国加重平均は1,177円、引上げ額は56円です(厚生労働省)。ただし発効は一斉ではなく、10月1日から12月2日までの間に県ごとに順次進みます。10月1日発効は15都道府県で、10月中に発効するのが37都道府県、11月が7府県、12月が3県。最も遅いのは沖縄県の12月2日です。

つまり「10月1日までに全部終わらせる」が正しい会社と、そうでない会社があります。複数の県に工場や施設を持っているところは、同じ社内で書面の日付が2つ3つに分かれます。先に確定させるのは額ではなく、事業場ごとの発効日です。

この記事のポイント

雇用条件書は差し替えて、本人に説明する

技能実習生の賃金額は、技能実習計画と雇用条件書に数字で書かれています。発効日以降の労働には新しい額が適用されるので、書面が現実と合わなくなります。

労働基準法15条の明示義務は労働契約を結ぶときのもので、改定のたびに書面を交付し直すことが法律で定められているわけではありません。それでも当組合は、母国語を併記した書面を作って本人に説明し、本人保管・会社保管・組合保管の3部で残すよう案内しています。理由は監査です。監理団体の監査でも機構の実地検査でも、実習生本人が自分の賃金額と控除の内容を言えるかを見られます。書面を渡していなければ、説明した記録も残りません。

冒頭の現場のように5名いると、説明の仕方は5通りになります。N2まで進んだ人には書面を読んでもらえば済みますが、N4の人には通訳を入れて、手取りがいくらになるかまで一緒に見ます。同じ時期に入国しても2年で差がつくので、人数分をまとめて配って終わりにはできません。

軽微変更届は「上げるだけ」なら要らない、とされている

OTITが公開している技能実習計画の変更認定と届出の区分では、賃金の変更、その他の報酬、講習手当のいずれも変更認定は不要で届出が必要な項目に置かれています。ただし特記事項に「金額を引き上げる場合は届出不要」と書かれています。最低賃金の改定に合わせて額を上げるだけであれば、軽微変更届は出さない整理になります。

問題は、改定を機に他のことも一緒にやる会社が少なくないことです。基本給を上げる代わりに手当を下げる、寮費や食費の控除額を見直す、固定残業の建て方を変える。下がる項目や新しく生まれる項目があると、「引き上げるだけ」ではなくなります。届出が必要になる場合、期限は変更に係る事由が発生した日から1か月以内です。

ここは区分表の一行で決め切れる話ではないので、当組合は断定しません。控除や手当に手を入れるときは、動く前に管轄の地方事務所に内容を伝えて、届出の要否を確認してから進めています。確認して「不要」と言われた記録を残しておけば、後の監査でも説明できます。

MOOZ事業協同組合

賃金台帳は、時間額に直した数字で見られる

賃金台帳の作成は労働基準法108条の義務です。改定後の額を入れるだけでなく、最低賃金を上回っているかの確認をここで行います。

比較に使うのは支払総額ではありません。精皆勤手当、通勤手当、家族手当、時間外・休日・深夜の割増賃金、賞与のように1か月を超える期間ごとに支払うものは、最低賃金の対象となる賃金から除きます(最低賃金法および同施行規則。厚生労働省労働局の解説にも同じ整理が出ています)。通勤手当を含めた月給で割って「上回っている」と思い込んでいる例に、実際に出会います。残業が多い現場ほど、割増を抜いた所定内賃金だけで時間額を出す必要があります。

多人数の現場は、1人分の手間を人数で掛けない

5名、10名と受け入れているところで、書面を1人ずつ順に回すと必ず抜けが出ます。当組合は事業場ごとに、現行の雇用条件書の写し、直近3か月の賃金台帳、寮費・食費など控除項目の一覧、その県の発効日の4点を先に1セット集めます。そこから人数分をまとめてそろえ直す段取りです。

寮の家賃を人数で割っている場合は、入退去で1人あたりの控除額が動きます。改定と同じタイミングで現状を確認しておくと、書面と実際の控除がずれません。

特定技能の方も同じ事業場にいる場合は、手続きの系統が別になります。特定技能雇用契約の内容を変更したときは出入国在留管理庁への届出の対象で、期限は事由が発生してから14日以内です。報酬額の改定がこの届出に当たるかどうかは、入管が公開している様式と記載要領で毎回確認しています。実習と特定技能が混在している現場は、届出先も期限も違うという前提で表を分けておくほうが安全です。

何から手を付けるか

自社の県の発効日から逆算して、その2週間前までに雇用条件書ができていれば間に合います。手元に何もない状態からなら、先に挙げた4点(現行の雇用条件書の写し、直近3か月の賃金台帳、控除項目の一覧、発効日)を集めるところが出発点です。ここまでそろえば、額の計算も届出の要否判断も半日で終わります。

MOOZ事業協同組合は三重県津市の監理団体で、ミャンマー人材の技能実習を扱っています。特定技能の支援はグループの株式会社NADy(登録支援機関)が担当します。受け入れは2名からで、食品製造(弁当・惣菜・水産加工)、介護、縫製・電子部品組立、宿泊・クリーニング、溶接・自動車部品が中心です。書面のどこを直すのか分からない、控除に手を入れてよいか迷う、10名分をどう一度に回すか、といった具体的なところは、必要書類のご案内と手続きのサポートという形で対応しています。他の団体で受け入れ中の企業からのご相談も受けています。連絡先はhttps://mooz-gr.jpです。

なお育成就労は2027年4月の施行が予定されている新制度で、賃金変更時の届出がどう整理されるかは政省令によって変わりえます。現時点の情報では細かい部分が固まっていないため、当面は技能実習と同じ手順で回す前提で社内の段取りを組んでいます。