最低賃金の改定後、実習生の月給はこう計算し直す

最低賃金の改定後、実習生の月給はこう計算し直す

最低賃金の発効後に月給制の実習生の給与計算で見直すのは、時間額への換算、残業単価、控除の3か所です。月給の総額が足りていても、精皆勤手当と通勤手当を抜いて時間額に直すと不足する場合があります。発効日以降に旧額のまま払った分は、差額を追加で払うことになります。厚生労働省の最低賃金特設サイトは、賃金算定期間の途中に発効日がある場合でも、発効日以降は改定後の額以上を支払う必要があるとしています。

都道府県ごとの額と発効日は基本の記事にまとめてあります。ここでは三重県の1,143円(2026年10月1日発効)を使って、計算だけを追います。

月給19万2,000円が、時間額では足りなくなる

三重県内の食品工場を想定します。年間の所定労働日数が245日、1日の所定労働時間が8時間。年間1,960時間なので、1か月の平均所定労働時間は163.33時間です。

月給の内訳は、基本給175,000円、職務手当5,000円、精皆勤手当8,000円、通勤手当4,000円。合計192,000円です。

最低賃金と比べるときは、ここから精皆勤手当と通勤手当を抜きます。最低賃金法第4条と同法施行規則が、精皆勤手当・通勤手当・家族手当、時間外や休日・深夜の割増賃金、賞与など1か月を超える期間ごとに支払う賃金を、対象から外しているためです。残るのは基本給と職務手当の180,000円です。

180,000円を163.33時間で割ると、約1,102円。改定前の1,087円は上回っていましたが、1,143円には41円届きません。

必要な月額は、1,143円×1,960時間÷12か月で186,690円です。不足は月6,690円。10名いれば月66,900円、年間で約80万円です。総額の192,000円だけを見て「足りている」と判断していると、この不足に気づきません。

所定労働日数が違えば、必要な月額も変わります。年250日の会社なら190,500円、年260日なら198,120円です。同じ月給でも、休日が少ない会社ほど時間額は低く出ます。換算に使う時間数は、就業規則と年間カレンダーから自社の数字を出してください。

この記事のポイント

精皆勤手当を基本給に入れれば済むか

先ほどの例では、精皆勤手当8,000円を基本給に組み入れると、対象の賃金は188,000円になり、186,690円を上回ります。支払総額を変えずに済むので、この方法を考える会社は多いです。

MOOZ事業協同組合(三重県津市)では、この方法をすすめていません。基本給を6,690円以上引き上げ、精皆勤手当は残す形を基本に案内しています。

理由は2つあります。1つは、手当を無くすと技能実習計画と雇用条件書に書いた報酬の項目が変わることです。額を引き上げるだけなら外国人技能実習機構(OTIT)への届出は不要とされていますが、無くなる項目があれば同じ扱いになるとは限りません。手当に手を入れるなら、先にOTITの地方事務所へ確認します。

もう1つは、本人から見た分かりやすさです。「最低賃金が上がったのに、もらう額が変わらない」という説明は、通訳を入れても伝わりにくいものです。

基本給を上げると、残業単価も変わる

基本給を上げたら、残業1時間あたりの単価も計算し直します。ここで、最低賃金の計算とは入れる手当が違います。

割増賃金の基礎から除けるのは、労働基準法第37条と同法施行規則第21条が挙げる家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金です。精皆勤手当はこの中にありません。最低賃金の判定では抜き、残業単価では入れることになります。

先ほどの例で計算します。改定前の基礎は、基本給175,000円+職務手当5,000円+精皆勤手当8,000円で188,000円。163.33時間で割って1.25を掛けると、残業1時間あたり約1,439円です。基本給を6,690円上げると基礎は194,690円になり、単価は約1,490円に上がります。月20時間の残業がある現場なら、1人あたり月1,000円ほどの増加です。

給与ソフトで基本給だけ直し、残業単価を固定の数字で入れたままにしている例があります。単価を自動計算にしていない会社は、ここを手で直します。

MOOZ事業協同組合

発効日をまたぐ月と、旧額で払ってしまった月はどう計算する?

締め日が月末でない会社では、1つの計算期間に発効日が入ります。20日締めなら、9月21日から10月20日の期間のうち、10月1日以降に働いた分が新しい額の対象です。

月給制の人について、1つの期間を日割りで2つの単価に分けるのは手間がかかり、間違いも出ます。当組合は、発効日を含む計算期間の初日から新しい月給にする方法を案内しています。この例なら9月21日からです。会社の負担は10日分ほど増えますが、計算が1本で済み、本人への説明も「今月の給与から」の一言で終わります。

すでに旧額で払ってしまった場合は、差額を出して追加で払います。時給制の人で例を置きます。時給1,100円、10月1日から20日までの所定労働が14日・112時間、残業が10時間だったとします。

所定分の差額は、43円×112時間で4,816円。残業分は43円×1.25×10時間で約538円。合わせて約5,354円です。翌月の給与に「最低賃金改定差額」のように項目を分けて載せると、賃金台帳で後から追えます。

月給制の人は、不足していた月額をそのまま追加します。先ほどの例なら6,690円と、残業単価が上がった分です。

最低賃金額に満たない賃金しか払っていない場合、地域別最低賃金については最低賃金法第40条に50万円以下の罰金の定めがあります。技能実習では賃金の支払いが監理団体の監査と機構の実地検査で必ず見られる項目で、不払いは次の受け入れの審査にも響きます。気づいた時点で差額を払い、計算の過程を残しておいてください。

寮費と水道光熱費の控除は、最低賃金の判定に関係しない

最低賃金と比べるのは、寮費や水道光熱費、食費を引く前の賃金です。控除後の手取りが少なくても、それで最低賃金を下回ることにはなりません。逆に、寮費を下げても賃金の不足は埋まりません。

改定の月に控除で確認するのは2点です。

1点めは、昇給分を控除の引き上げで回収していないかです。寮費の上限は、借上げなら家賃を入居人数で割った額までで、額を変えるには本人の合意が要ります。上限の計算は寮費の記事に書きました。

2点めは、水道光熱費を定額で引いている場合に、実費を超えていないかです。昇給で給与計算に手を入れる月は、直近の請求書と控除額を突き合わせるのに都合のよい時期です。

賃金が上がると、社会保険料と所得税も動きます。昇給した額がそのまま手取りに乗るわけではありません。当組合が監査で回っている兵庫県のそう菜加工の現場には、2024年8月に入国した女性5名がいて、日本語はN2からN4まで幅があります。N2の人は給与明細を自分で読めますが、N4の人には、どの行がいくら増えて、どの行がいくら引かれたかを通訳と一緒に指で追います。人数の多い現場ほど、明細の見方の説明は1人ずつになります。

計算を始める前にそろえるもの

手元に置くのは、年間の所定労働日数が分かる就業規則と年間カレンダー、手当の内訳が分かる直近の賃金台帳、控除項目の一覧、発効日以降に支払った給与の明細です。これで、時間額の換算、残業単価、差額の3つが計算できます。10名以上の現場は、1人ずつではなく賃金台帳を一覧にして、対象の賃金の列を1本足すと早く終わります。

三重県・東海地方で技能実習生や特定技能の人を受け入れている会社、これから受け入れる会社は、この資料を持ってMOOZ事業協同組合(三重県津市)にご相談ください。手当の組み方をどうするか、控除を動かしてよいかといった、計算の手前の判断から一緒に確認します。他の監理団体で受け入れ中の会社からの相談も受けています。連絡先は https://mooz-gr.jp にあります。