育成就労はなぜ特定技能1号へ続くのか―技能実習見直しの経緯―

育成就労はなぜ特定技能1号へ続くのか―技能実習見直しの経緯―

1. はじめに ~「名前が変わるだけ」ではない~

育成就労は、3年間の就労を通じて、特定技能1号の水準まで人を育てる制度です。技能実習の看板を掛け替えたものではありません。

いちばん大きく変わったのは、制度の「目的」です。技能実習の目的は、技能を開発途上国へ移す国際協力でした。育成就労の目的は、人手不足の分野で人を育て、確保することです。

この違いは、法務省・出入国在留管理庁の資料に、はっきり書かれています。技能実習制度を「発展的に解消」し、人手不足分野の人材育成・人材確保を目的とする育成就労制度を創設した、という整理です(出入国在留管理庁「育成就労制度の概要」 📄 出入国在留管理庁の資料(PDF) )。

制度の始まりは2027年4月1日です。施行日は政令で正式に決まっています。

この回では、「なぜ育成就労が特定技能1号へつながる形になったのか」を、過去の流れからたどります。理由が分かると、これから細かいルールが決まるときにも、どちらへ動くかを自分で予想できます。

前回は「育成就労とは何か」として、技能実習から変わるところ・変わらないところを整理しました。今回はその「なぜ」の部分です。

この記事のポイント

2. 技能実習の建前 ~3年たったら母国へ帰る人だった~

技能実習は、もともと「日本で身につけた技能を、母国に持ち帰って生かしてもらう」ための制度です。

2017年11月に施行された技能実習法(外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律)は、第1条で目的を国際協力の推進と定めています。第3条第2項には、技能実習は「労働力の需給の調整の手段として行われてはならない」と書かれています。

つまり法律の上では、技能実習生は人手不足を埋めるための人ではありません。実習を終えたら帰国して、母国で技能を生かす人です。

ところが、受け入れている会社の実感は違いました。

食品工場でも介護の現場でも、実習生は職場に欠かせない働き手になっていました。3年かけて仕事を覚えた人が、ちょうど戦力になったところで帰国する。この「建前と実態のずれ」が、長く指摘されてきました。

建前が「帰国」なので、制度の中に「日本で働き続ける道」は用意されていませんでした。日本語の要件がないのも、同じ理由です。母国に技能を持ち帰る人に、日本で暮らし続けるための日本語は、制度上は求めていなかったのです。

3. 2019年、特定技能が先にできた ~即戦力の受け皿~

ずれを埋める最初の動きは、2019年4月に始まった特定技能です。

特定技能は、人手不足の分野で即戦力として働く外国人を受け入れる制度です。技能実習と違い、目的そのものが「人材の確保」です。

特定技能1号になるには、原則として技能の試験と日本語の試験(日本語能力試験N4以上、または国際交流基金日本語基礎テスト=JFT-Basic)に合格する必要があります。

ここで、技能実習との間に1本の橋が架けられました。技能実習2号を良好に修了した人は、同じ系統の仕事なら、技能と日本語の試験を受けずに特定技能1号へ移れるという取り扱いです。

これで、実習を終えた人が日本に残って働き続ける道ができました。

ただし、この橋は「後から付け足したもの」でした。技能実習の目的は、変わらず国際協力のままです。帰国が前提の制度から、帰国しない道へ移る人が増えていく。制度の看板と使われ方が、ますます離れていきました。

4. 有識者会議が出した答え ~育てる制度と、続けて働く制度を一本の線に~

建前と実態のずれを正面から見直したのが、2022年11月に設けられた「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」です。

有識者会議は2023年11月に最終報告書をまとめました。報告を受けて、2024年2月9日の外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議で、政府の対応が決まりました。

方向は次の3つでした。

  • 技能実習制度は、実態に合わせて発展的に解消する
  • 代わりに、人手不足分野での人材育成と人材確保を目的とする育成就労制度をつくる
  • 特定技能制度は、適正化したうえで続ける

ここで大事なのは、2つの制度の役割分担です。

育成就労は「育てる」制度、特定技能は「育った人が続けて働く」制度。最初から一本の線でつながる前提で設計されました。技能実習と特定技能のように、後から橋を架けるのではありません。

この方針をもとに法律が改正され、2024年6月21日に公布されました(出入国管理及び難民認定法及び外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律の一部を改正する法律)。

経緯を日程でまとめると、次のとおりです。

2017年11月  技能実習法 施行(目的は国際協力)
2019年 4月  特定技能 開始(目的は人材確保)
            技能実習2号の良好修了者は試験免除で移れる
2022年11月  有識者会議 設置
2023年11月  有識者会議 最終報告書
2024年 2月  関係閣僚会議で政府の対応を決定
2024年 6月  改正法 公布
2027年 4月  育成就労 施行

MOOZ事業協同組合

5. 「つながる」ことで変わったこと ~分野と日本語が、特定技能に合わせて決まる~

育成就労が特定技能1号へつながる前提でつくられたため、制度の細かいところも、特定技能から逆算して決まっています。現時点の情報では、主に3つあります。

受け入れられる分野は、特定技能の分野が基本

育成就労で受け入れられる分野(育成就労産業分野)は、特定技能の分野のうち、日本で就労しながら育てることがなじむものです。

技能実習の職種・作業の一覧とは、考え方の出発点が違います。3年後に特定技能1号として同じ分野で働けるかが、分野を決める基準になっています。

自社の仕事が対象になるかは、技能実習の職種名ではなく、特定技能の分野と業務区分で確かめることになります。

日本語は、入国前から段階的に確かめる

育成就労では、日本語の確認が段階的に組み込まれています。

出入国在留管理庁・厚生労働省の資料では、就労を始める前に、A1相当(日本語能力試験N5程度)の試験に合格するか、それに相当する日本語講習を受けることとされています📄 厚生労働省の資料(PDF)。

そして特定技能1号へ移るときには、技能検定3級などか特定技能1号評価試験の合格と、A2相当(日本語能力試験N4など)の日本語力が求められる方向です。

技能実習には日本語の法令上の要件がありませんでした。2号を良好に修了すれば、日本語の試験も免除で特定技能1号へ移れました。育成就労では、この「試験なしの移行」がなくなる方向だと受け止めています。

人数の上限も、分野ごとに決まる

育成就労では、分野ごとに受け入れ見込数を定め、それを上限として運用します(出入国在留管理庁資料 📄 出入国在留管理庁の資料(PDF) )。

生産性の向上や国内の人材確保をしても足りない分だけを受け入れる、という考え方です。これも特定技能と同じ仕組みです。

6. 現場で見えている差 ~同じ時期に来ても、2年で日本語に差がつく~

「3年後にN4」と聞くと、多くの会社は「3年あれば大丈夫だろう」と考えます。ただ、私たちが監査で見ている現場は、そう単純ではありません。

2026年9月、兵庫県の食品工場(そう菜加工・女性5名)の監査。5名とも2024年8月入国。2年で日本語の伸び方に差がついていた。

同じ月に入国し、同じ工場で同じ仕事をしていても、2年で日本語の力にはっきり差がつきます。

この5名は技能実習生なので、今の制度なら全員が2号を修了すれば、日本語の試験なしで特定技能1号へ移れます。

育成就労では、そうはいきません。いちばん伸びが緩やかな人が、移行に必要な日本語の試験に届くかどうかが、その人が残れるかどうかを分けます。

5名、10名とまとめて受け入れる会社ほど、この差は大きな問題になります。 3年後に10名のうち何名が特定技能1号へ移れるかで、4年目以降の人員計画が変わるからです。

7. 受け入れ企業にとっての意味 ~「3年後も残ってほしい人」を育てる計画が要る~

ここまでの経緯をまとめると、受け入れ企業にとっての意味は1つです。

育成就労は、3年後に特定技能1号として残ってもらうことを前提に、人を育てる制度です。

技能実習の感覚で「3年間いてくれればよい」と考えると、制度の作りと合いません。特に次の3点は、受け入れを決める前に社内で話しておく必要があります。

  • 3年後、何名に特定技能1号として残ってほしいか
  • そのために、技能検定3級などの技能の試験を、いつ誰に受けさせるか
  • 日本語の学習時間を、勤務の中でどう確保するか(就業後に任せきりにしない)

MOOZ事業協同組合(三重県津市)では、育成就労を検討している会社に、受け入れの人数より先に「3年後に残ってほしい人数」を決めることをおすすめしています。残ってほしい人数が決まれば、入国前の日本語教育にどこまで手をかけるか、寮をどれくらいの期間借りるかも決まってくるからです。

当組合が専門とするミャンマー人材は、提携先の日本語学校で入国前から毎月成績表が出ています。日本語の進み方を配属前から見られるのは、3年後のN4を見すえるうえで大きな材料です。当組合で入国する女性の実習生は、基本的にN3かN2を入国の時点で持っています。それでも上の監査のように入国後の伸び方には差がつくので、成績表を見ながら一人ずつ手を打ちます。

なお、育成就労でミャンマーから受け入れるための二国間の覚書は、2026年10月14日時点でまだ結ばれていません。ミャンマー人材を育成就労で受け入れる時期は、覚書の動きを見て判断することになります。

8. おわりに ~迷ったら「3年後」から考える~

技能実習の目的は「国際協力」、育成就労の目的は「人材の育成と確保」。この1点が変わったことで、分野も日本語も人数枠も、特定技能1号から逆算して決まるようになりました。

これから省令や運用要領で細部が変わることがあっても、「特定技能1号へつなぐ」という軸は動かないと私たちは見ています。細かな運用は、入管庁の最新情報をご確認ください。

受け入れ企業が今すること

  • 自社の仕事が、特定技能のどの分野・業務区分に当たるかを確かめる
  • 3年後に特定技能1号として残ってほしい人数を、社内で決める
  • 日本語と技能の試験を、勤務計画の中に入れる前提で人員を組む

次回は、育成就労の費用を取り上げます。技能実習と比べて、どこで費用が増え、どこが変わらないのかを整理します。

ご相談のときは、業種(できれば作業の内容)、受け入れたい人数、3年後に残ってほしい人数、受け入れ開始の希望時期を伝えていただくと、技能実習で今入れるか、育成就労を待つかまで含めて具体的にお答えできます。

MOOZ事業協同組合(三重県津市)
MOOZ公式サイト

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