育成就労の転籍、本人の希望で移れる条件―期間・人数枠・補てん―
育成就労では、本人の希望で職場を移る「転籍」が認められます。ただし、入国してすぐには移れません。
本人の希望で移れるのは、分野ごとに決まった期間(1年から2年)を最初の会社で働いたあとです。さらに、技能と日本語の試験に受かっていること、移る先の会社が条件を満たしていることが必要です。
この記事は、2027年4月以降に5名以上をまとめて受け入れる予定の食品工場の社長に向けて書いています。気にされるのは「せっかく育てた人が、何人、いつ出ていくのか」だと思います。2026年10月時点で公表されている範囲で順に答えます。
1. 転籍は「本人の希望」と「やむを得ない事情」の2種類 ~この記事は前者の話~
転籍には2種類あります。会社の倒産や人権侵害などやむを得ない事情による転籍と、本人の希望による転籍です。
前者は技能実習でも認められていた考え方で、期間の縛りはありません。今回新しく加わるのは後者です。以下はすべて、本人の希望による転籍の話です。
どちらの転籍も、同じ分野の同じ業務区分の中でしか移れません。食品製造で入った人が、介護や宿泊に移ることはできません。

2. 移れるまでの期間は何年? ~分野ごとに1年か2年~
政府の基本方針(2025年3月11日閣議決定)では、本人の希望で移れるまでの期間は「1年を目指しつつ、当面は分野ごとに1年から2年の範囲で定める」とされています。
分野ごとの年数は、2026年1月23日に閣議決定された分野別運用方針で定められました(法務省・出入国在留管理庁の育成就労制度のページに掲載)。
2025年9月に入管庁の有識者会議に示された案では、次のように分かれていました。
- 2年:介護、建設、工業製品製造業、造船・舶用工業、自動車整備、飲食料品製造業、外食業、資源循環の8分野
- 1年:ビルクリーニング、リネンサプライ、宿泊、鉄道、物流倉庫、農業、漁業、林業、木材産業の9分野
確定した年数は、分野別運用方針の本文で自社の分野を確かめてください。案と本文が同じかどうかを、私たちも申請のたびに本文で照らしています。
2年の分野で、会社がもう一つ求められること
基本方針では、1年を超える期間を設けた分野で受け入れる会社は、働き始めて1年が過ぎたあとに、昇給などで待遇を上げることが求められています。
「2年縛れるから安心」ではありません。2年目に入る時点で、待遇を上げる約束が先にあります。
3. 日付で当てはめると ~2027年4月に始めた人は、早くて2028年4月か2029年4月~
育成就労の施行は2027年4月1日です。仮に2027年4月に働き始めた人で考えます。
- 期間が1年の分野(宿泊など):早くて2028年4月から、本人の希望で移れる
- 期間が2年の分野(案では飲食料品製造業・介護):早くて2029年4月から移れる
育成就労は原則3年です。2年の分野では、3年のうち最後の1年が「移れる期間」になります。1年の分野では、2年分が移れる期間になります。
なお、2027年3月までに技能実習で入った人は、技能実習のまま修了まで続けます。技能実習には本人の希望による転籍はありません。
4. 期間を満たせば誰でも移れるか ~技能と日本語の試験が要る~
期間だけでは移れません。技能の試験と日本語の試験の両方に合格していることが条件です。
基本方針では、技能は技能検定基礎級かそれに相当する育成就労評価試験、日本語はA1相当(日本語能力試験N5など)からA2相当(N4など)の範囲で、分野ごとに定めるとされています。
ここで、現場で見てきたことを一つ書きます。
兵庫県の食品工場(そう菜加工・女性5名)。全員が2024年8月に入国しました。同じ時期に来ても、2年で日本語の伸び方に差がついています。
同じ日に入った5人でも、試験に受かる時期はそろいません。転籍の条件を満たす人は、一度にまとめて出てくるのではなく、一人ずつ出てきます。多人数を受け入れる会社にとっては、ここが計画の立てどころです。
日本語がよく伸びた人ほど、早く条件を満たします。つまり、よく育てた人ほど移れる立場になる、という仕組みです。

5. 移る先の会社にも人数の上限がある ~転籍者ばかりは受け入れられない~
本人が移りたいと思っても、移る先の会社が条件を満たさなければ移れません。公表資料や運用の議論から読める条件は、次のとおりです。
- 移る先が優良な育成就労実施者であること
- 移る先で、本人の希望で転籍してきた人の割合が上限を超えないこと(入管庁のパブリックコメントの意見整理資料では「3分の1以下」を前提に意見が出ています)
- 民間の職業紹介事業者を通した転籍ではないこと
- 前の会社に初期費用の一部を払うこと(次の節)
人数の上限があるので、育成就労の人を転籍者だけで集めることはできません。最初の会社で育てた人が主になるように作られています。
細かい割合や、地方から都市部へ移る場合の扱いは、運用要領と告示の数字で確かめる必要があります。この記事では、確かめられた数字だけを書いています。
6. 前の会社への補てんはいくら? ~計算の形は決まったが、額はまだ~
本人の希望で人が移ったとき、前の会社が負担した初期費用(渡航費、入国後の講習の費用など)の一部を、移った先の会社が前の会社に払います。
計算の形は「主務大臣が告示で定める額 × 前の会社で働いた期間に応じた割合」です。前の会社で長く働いた人ほど、払う額は小さくなります。
ただし、2026年10月19日時点で、告示で定める額そのものはまだ公表されていません。 額が出ていない段階で「いくら戻る」と案内している話があれば、根拠を確かめてください。
補てんは「出ていかれたときの保険」です。出ていかれないための手当てではありません。
7. 受け入れ企業が1年目にすること ~昇給の道筋を本人に渡す~
ここまでの条件を並べると、会社が決められることは多くありません。期間も試験も上限も、制度が決めます。どの会社に移るかを決めるのは本人です。
だから、会社が手を打てるのは「移りたい」と思わせない側です。
MOOZ事業協同組合(三重県津市)では、育成就労で受け入れる会社に、契約の前に、何年目にいくら上がるかを紙で本人に渡すことをおすすめしています。2年の分野では、1年後の待遇の引き上げがもともと求められています。その中身を、入国前に本人が知っている状態にしておきます。
もう一つは、寮とシフトです。5名、10名と受け入れる工場では、同じ寮で暮らす人同士で待遇を比べます。一人だけ条件が違うと、それが転籍の理由になります。昇給の基準は全員に同じ紙で示します。
当組合の受け入れは2名からです。女性の受け入れでは、多くの人がN3・N2を取得して入国しています。日本語が伸びた人が転籍の条件を早く満たすのは、先に書いたとおりです。だからこそ、私たちは1年目の待遇の見せ方を大事にしています。
おわりに ~次に確かめる1点~
次に確かめるのは、自社の分野の転籍の期間が1年か2年かです。分野別運用方針(2026年1月23日閣議決定)の本文で確かめられます。2年なら、1年後の待遇の引き上げの中身をいまから決めておきます。
いま他の監理団体で技能実習生を受け入れていて、2027年4月以降の転籍への備えが気になる会社には、「監理団体乗り換え診断」を用意しています。
相談のときは、業種、いま受け入れている人数、2027年以降に増やしたい人数と時期を教えてください。こちらからは、その業種の転籍の期間と、1年目に用意する待遇の書類の案、受け入れの日程をお返しします。
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